海外旅行をする時間とお金があるなら、
全国ヤタイめぐりをするほうがいいとウソブク筆者


D珍宝亭

ホテルのすぐ脇にちんまりとしたラーメン屋が見える。
餃子をつまみに冷えたビールでも飲んで、麺類で仕上げるという、安直な手でいこうかと店の前で立ち止まった。
のれん越しに中を覗くと、店のおやじが客席のカウンターに腰掛け、暇そうな顔をして新聞を広げているのが見えた。
この時間に客一人いない店イコールまずい店、という公式が頭に浮かんだ。
しかも、部屋に運んでくれる、桂浜旅館の、自慢料理のかわりがラーメンでは、あまりにも落差がありすぎると思われたので、もう少しぶらついてみることにした。

電車通りを、はりまや橋方面に向かいながら、行く手を観察したが居酒屋、バーなど飲食系の灯りがみあたらない。
乗客の少ない路面電車が雨にライトをにじませながら通り過ぎていく。
およそ3ブロックくらい歩いたが、モスバーガーの店が一軒あっただけ。
『こういうときは裏通りを探しなさい』と長年の経験がささやくので、左折して少し行くと、帯屋町という、ある程度繁華な所にでた。
飲んだり食ったりできそうな店はチラホラあるが、どうもピンとこない。
雨の日曜日だからか、人どおりもまばらで街に活気がない。
しゃれたクラブのような店に入ろうかと立ち止まったりしたが、
『今夜は女子従業員の人件費を全部あなたに出していただきます。』という趣旨の請求書をもらいそうな予感がしたのでやめにした。

30分もうろついたあげく、いつの間にかホテルの周辺にもどっていた。
『まいったな・・・』『もうどうでもいいや!』とヤケになりかけた時、一軒の居酒屋の前に来た。
屋号が『珍宝亭』。 赤地に墨黒々と書かれた看板がいかにも品がない。
どうせろくな店ではなさそうだがこの際なんでもかまわない。

「いらっしゃいませ!!」
ものすごく元気な女性の声に迎えられた。
店の真ん中に、手前から奥へまっすぐの通路があり、左手はカウンターになっている。
中で3人、入り口に近い所に大将らしき40代、あと2名若い男が忙しそうに仕事をしている。
10ほどもあろうか、椅子席は、ほぼ、満席である。
右手は座敷席になっていて、どのくらい奥まであるのか見えないがいくつかの間仕切があり、一番こちらの座敷席に男女が一組、仲間を待っているといった顔で座っている。
通路を、先ほどの、元気いっぱいの女性(これはとっさに大将のカミさんとみた)とその他2名のおばさんが、客の注文を大声で復唱しながら動きまわっている。
店外から予想したのとはずいぶん違って、嫌みのない和風居酒屋で、よく繁盛している。
雨の日曜日の夜とは思えないにぎやかさである。
入ってすぐの右手の足元に、あった、あった。
屋号を形にした、1メートルもあろか、木製の男根がお地蔵さんのように立っている。
竿のなかほどに、よだれ掛けよろしく、白のふんどしをしめている。
古木の根を利用した木彫で、ボクボクとした根はホーデンを形づくっている。
みごと過ぎる作品ではあるが、店内の家庭的ともいえる明るい雰囲気とはミスマッチで、『異様』と評価せざるを得ない。

席を詰めてもらって入り口に近いカウンターに腰掛けた。
とりあえずビールを注文し、メニューをひろげた。
カラー写真つきの印刷物をラミネート加工したものに、よせばいいのに、珍宝A、珍宝Bなる名前がついた、チーズと山芋をつかった、わけのわからない特別料理が載っている。
ビールの後、酒に切り替えようと思っていたので、ハズレはないであろう、もずく酢とかつおのたたきを注文した。
ビールがうまい!
全神経がのどに集中され、一瞬、店内の喧噪が消えるほどである。
コップに3杯目を注いだとき、小学校低学年の男の子とその両親という客が入ってきた。



くるなり、男の子が"巨大木珍"を見つけ、お母さんに
「これ、なに?」ときいている。 母親がなんと言ったのか聞こえなかったが、それがなんであるかを答えたようで、そして、父親と顔を見合わせながら苦笑している。
だが、子供は自分のモノとのギャップに納得しないためか、
「うそだ!」、「ねえ、なに?」と真剣にくいさがっているところがおかしい。
店の入り口における、ちょっとした、やりとりは親子が奥の座敷席に移動することで、性教育に発展することなく、終了した。

続いておじさんが一人入ってきた。
かなりの常連とみえ、いきなり大将やら、かみさんやらと話し始めている。 カウンターがいっぱいなので立ったままである。
飲み物は湯割りを頼むといって、立ち飲みの体勢になっていたが、奥の客が、おあいそとなり、順おくりで僕の左に席ができた。
「どうも」程度でしばらく会話はなかったが、ビールが無くなった機会を捉え自分から話し掛けた。
「酒を注文しようと思うけど、おすすめの地酒かなんかないですか?」
「うまい酒ねえ・・・。」
「司牡丹は有名だけどあれはどうですか?」と昔、高知出身の友人が自慢していた銘柄を思い出して、たずねてみたが、大した酒ではないという。 そして、ここにはないがこれならば自信をもってすすめられる地酒で『ムテムカ』という酒があると教えてくれた。 漢字で『無手無冠』と書く銘柄で、四万十川沿いの小さなつくり酒屋のものだそうである。
この店で酒の銘柄にこだわるつもりはなく、どんな酒でもよかったのだが、話のなりゆきで、当たり前の酒が注文しにくくなり、おじさんと同じ焼酎のお湯割りを飲むことにした。
僕は普段、焼酎対お湯=四対六で飲むが、おじさんなどは濃いめの六対四位かと思って聞いてみたら、特別薄いものをやっているという。
建築設計をやっているというこの人は酒好きで、以前は本当によく飲んだのだが、糖尿になり、それでも完全にはやめられず、今は体に謝りながら飲んでいるそうである。
だが、この人は悲愴感の漂うような飲ん平ではなく、いい酒飲みである。
昔からずっとそうであったに違いないとみた。
店を出るまで、古くからの飲み友達のように、釣りの話、料理の話など、楽しい会話でうれしい酒が飲めた。

SEO [PR] 母の日 カード比較 再就職支援 バレンタイン 冷え対策 誕生日プレゼント無料レンタルサーバー ライブチャット SEO