ヤデウデシヤと東海林さだお化してナポレオンのコルク栓をひねった。


J一人酒盛り

「こんにちわ」とこちらから声をかけた。
「ああ、こんにちわ」、「さっき、きれいな曲が聞こえたんで誰かなと思いました」と男はにこにこしながら近づいてきた。
「キャンプ場に来たものだけど、この道を下っていけばキャンプ場にいきますか?」
「いいや、この道は海岸へでる道ですよ」
やはり戻るしかなさそうだ。
男もタバコを取り出して隣に腰を下ろした。



「下の海岸付近でこんな土器がでるんですよ」といいながら、自分だけが知っている秘密の場所から宝物を持ち帰った少年のようなしぐさで、抱え持っていた筒状の容器をあけて中身見せてくれた。
大きなものでも一〇センチ程度であるが、なるほど、縄文土器らしい模様のついた陶器のかけらがたくさん入っている。 この人は陶芸作家かなにかではないのだろうかと僕は思ったが確かめはしなかった。
タバコ一本分の会話であったが、山道で出会った見知らぬ人との、うれしいひとときであった。

その晩は、山を歩いて汗を流したせいか、冷えたビールがやたらとうまかった。
ビールで勢いがついてしまい、濃い酒に移行せねばおさまらなくなった。 ところが日本酒も焼酎もウイスキーも切れている。 やむなくもう一缶ビールをあけたがシックリしない。
ハッと気がついた。 高知の居酒屋で教えられた幻の銘酒、大正町の造り酒屋で仕入れた自慢の銘酒、「無手無冠」があるではないか。
家に帰って、旅をふりかえりながら飲むべき、あるいは友達に旅の話を聞かせながら飲むべき酒ではあるが、今は非常事態である。
酒は後でも入手できるが、今という大切な時間は永遠に戻らない。
銘酒と信じて大事にもってきたが、まだ味見もしてなかった。
べつに全部飲んでしまおうというわけではない。
などと勝手な理由をつけて一口飲んでみた。
うまい! 近頃はやりの吟醸系日本酒特有のまったり感がない、水のようなさわやかさ。 俺の好みである。
だが飲み進むうちに勿体なくなってきた。どうということのない酒ならどんどんやるが、これはがまんして持ち帰り、友達にもおかあちゃんにも飲ませてやりたいと思った。
そういう正しい心になると神様が助けてくれるものである。 また、ハッと気がついた。 車のどこかにブランデーが一本あるはずである。
ブランデーなんぞ普段飲まないから思い出さなかったが、酒が切れたときの足しになるかもしれないと思い、誰かに頂いた高級ブランデーを放りこんでおいたものである。
ヤデウデシヤと東海林さだお化してナポレオンのコルク栓をひねった。
たとえ一人でも、ブランデーグラスなんかで格好つけて飲んだらはずかしいなとつぶやきながら、手近にあった、木のおわんで飲んだ。
ジューシーな香りと、ガスクロ分析したら200種類以上ピークが検出されそうな、コクのある、それでいて透明感のあるみごとな酒である。

酔いがまわってきて、フト我に返ってみると、頭に浮かんだことをすべて口に出してしゃべっていた。
円生の落語"「一人酒盛り」"状態である。
独房の囚人状態である。 相手もいないのに「コレデ、イインダヨナー」などと、すっかりアブナイおじさんになっていた。
そこで一人芝居をやめてハーモニカを吹くことにした。 心に浮かんだことを言葉にするのでなく曲にすればいい。 むしろこのほうが気持ちをこめることが出来ることがわかった。
そのうち曲に合わせてドンドンと床を踏み鳴らすようになり、やはり端から見たらそうとうクレージーにちがいない酔っぱらいになってしまった。
10時頃、これまで外から車内を照らしていたキャンプ場の街灯が消された。
灰皿がわりにしていたビールの空き缶にタバコを近づけると、飲み口がポット明るく浮かび上がる。
そんな静かな闇がおとづれ、そして俺も眠ることにした。

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